データ処理教本―土木計測分野

はじめに より

本書は主に建設業の土木施工における計測分野『データ処理』に関し，筆者がこれまで経験した具体的な事例をもとに概説したものである．ゆえに本書での内容は，数学の基礎的な知識から応用まで多岐にわたっている．読者の皆さんにおいては，できる限り内容を理解してもらえるよう簡易な表現に努めているが，不明な個所等があった場合は他の関連資料等を参考にして，より理解を深めることに期待する．

また，本書を読解するための基本として，従来の理論ありきでその検証として実施例があるのではなく，実施課題があってその問題をいかに解決するかについて，実験や理論を後追いで探求する処方で記載している．読者はそのような見方で読み進めてもらえることを希望する．

さらに，実測されたデータには，常に『真値』＋『誤差』があるということを理解していただき，どのようにすれば『誤差』を抑えることができ，本来の『真値』に限りなく近付けられるかを考察し，『誤差』を含むデータから目的とする値の検証のための推論を探求して確認する必要があると筆者は確信する．探求した推論の検証には科学技術計算ソフトウェアMathematica などの利活用を推奨したい（参考まで，筆者はMathCAD を使用している）．よって，数学の基本知識（行列式・ベクトル・最小2 乗法・論理数学・統計学）について，次頁以降の初章より学んで頂いたうえで，より一層『データ処理』の理解を深めて頂ければ幸いである．

なお本誌をまとめるに当たり，この様に内容を整理し今まで自身が行ってきた内容をまとめる事で次世代の読者へ多少なり参考になればと筆者は願望している次第である．

目次

Chapter 1　基礎数学

1. 行列式
   1. 逆行列
   2. 最小2乗法の解法
2. ベクトル
3. ベクトルの内積
   1. ベクトルの外積
4. 論理数学
   1. ブール代数
5. 統計
   1. データの信頼性
6. 二項分布
7. 移動平均
8. 積算平均

Chapter 2　土木工事現場で使用される計測機器と特徴

1. 施工に伴い予想される地盤変位
2. 変位計測器の特徴とその留意点

Chapter 3　トータルステーション

1. 測量座標系
2. 後方交会
   1. 後方交会例題
3. 後方交会を非線形方程式で解く
4. 後方交会をベクトルで解く
5. 既知点3点から後方交会を解く
6. 既知点4点から後方交会（3次元）を解く（HyPoS）
7. ノンプリTS を用いた高精度外形測定手法（TS ノギス）
8. ノンプリTS を用いたセグメント真円測定

Chapter 4　GNSS（Global Navigation Satellite System）

1. GNSS 測位原理
2. GNSS モニタリング
3. 地滑りモニタリング例
4. カルマンフィルタ

Chapter 5　波形解析

1. 振動波の基礎数学
2. 削孔スペクトル解析による地盤判定
   1. オーガ系削孔機による軟岩削孔の例
   2. オーガ系削孔機による一般土質の例
   3. 打撃削孔機による硬岩削孔の例
3. 既設コンクリート削孔における鉄筋検知
   1. デジタルフィルタの設計
4. PRBS を用いた振動波の精密到達時間測定
5. 土中GNSS

Chapter 6　写真測量

1. 立体撮影と共面条件・共線条件
2. 写真解析基礎
   1. A8法による相互標定
   2. 写真解析基礎
   3. アフィン変換
3. 空間フィルタ
   1. スペクトル写真

Chapter 7　慣性航法

1. 慣性航法応用の建設機械
2. 慣性センサ
   1. MEMS 慣性センサの比較
   2. MEMS 慣性センサのジャイロ校正
   3. MEMS 慣性センサの応用
3. MEMS 慣性センサによる三次元位置の算出

Chapter 8　機械学習

1. クレーン吊荷荷重の校正（モデル解析式）
2. Neural Network の原理
3. Neural Network を用いた線形化解析
   1. Neural Network をMathCAD計算による原理確認
   2. Neural Network 機械学習の結果