土の力学
定価 | ¥3,850(税込)
¥4,400(税込) (電子書籍) |
ページ数 | 220 |
サイズ | B5 |
著者 | 石田 哲朗 |
発売 | インデックス出版 |
ISBN | 978-4-910058-71-9 |
ISBN (電子書籍) | 978-4-910058-72-6 |
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序文 より
私が教員になろうと思ったきっかけは,今となっては赤面の至りですが,人を教育するのは私のように勉強の苦手な者が,その内容を苦労して理解し得たなら,わからない,わかりにくい箇所を把握できるので,それを学生らに伝えられるはずと,この浅はかな考えから現在の大学に転職し丸40 年間が過ぎてしまいました.しかしながら,今でも人に教えるということは,こんなに大変なことなのかと痛感し続け,未だに講義に向かう前には緊張しています.専門教育が多様化し講義で許される時間には限りがあります.そこで上手く伝えられなかった,説明に時間を取れなかった箇所を補えるような冊子を作れたらと,教員を目指した若い時の初心に帰り,その頃の願望を叶えるために昨年の夏から本書の執筆を始めました.
この分野に足を踏み入れる学生諸君や技術者としてスタートを切った若い皆さまが本書を利用することで,理解し難かった個所が解消し,すっきりしなかった公式がどのように定義されたものだったのかと納得されればと,些細な事でも自らが疑問を感じた算定式は紙面の許す範囲ですが,できるだけ丁寧に式を展開,説明したつもりです.数学が苦手で数式を見るのも嫌いな方でも,本書なら諦めずに通読してくだされば,十分に理論的な裏付けが,根拠を知らずに使われている定数がどのように算出されたものなのかを学べる入門書を目指しました.
大昔の学生時代に比べると,今は本当にこの分野に限らず多くの専門書が出版されていて,私個人としてもそれぞれの書の中から新しい知識として得るものは多く,不勉強だったと感ずることが多々あります.特に,土は工学的な材料のなかでも取り扱いが難しく,初めて学ぶ人には取っ付き難い科目の一つとされています.建設工学や環境学に興味を抱いて進学してきた学生諸氏にも,なぜ,これほど地盤工学が敬遠されるのか,大学教育に携わる一人として常々考え悩んでいますし,昨今は理系離れが加速し,国策として理系学部学科を増やせ,増やせば補助金も配分すると謳われるまでになりました.もし,それが基礎教育の数学や物理,化学の教育内容に起因しているなら,これまでの専門教育の専門書の記述内容にも手を入れる必要があるのではと考えています.
具体的には,現象を紹介し,それを数式化し,式と式の行間は各自の能力で埋められるはずだというような多くの書籍の説明の仕方に問題があるのではと考えたからです.専門書はその分野に必要なことを網羅することが望まれますので,当然紙面には制約があるでしょう.きっと,そうだと信じてこれまでも多くの専門書を見比べてきました.優秀な教員なら講義中に,その行間を埋めているのかもしれませんが,最近の学生は昔ほど真剣に講義を聞く者は少なく,全く考えずに質問してくる.終には質問するだけ良いかと思わせるくらいです.試験前に教科書を見直しても,直に最終的な算定式が示されていたり,その式の説明が不足していることは多く,よく理解できないけど,こんな時にはこの式を使うのかという程度で諦めて,どこかさっぱりしない消化不良のままで,次のステップに進むことになります.
地盤工学の中で利用されている力学では,土という均質でない物質を対象としているので,理論的に証明できるものもあれば,経験則や半理論的な解析式もあるのですが,卒業後に実務に就いてからも,専門書に示されているから,この式を使えばいいのだろうということになろうかと思えます.実際に,私なども理解の薄いままで講義を進めた経験もありますし,現在でもなぜだろうと内心思っている箇所もあります.そんな点を少しでも減らして,私が疑問に感じたものを可能な限り,苦手な数学や物理を使って,それらを他書にはないと言っていいくらいに丁寧に解説したのが本書であると,自負自賛し,冊子名は「土の力学」としました.そのような意味で,土の生成や土の分類方法のような力学的な内容でない事項や土の締固め,路盤・路床などの土を材料として改変する分野は省略しています.他書や学会,協会で出版している書物を参照して頂きたいと思います.
大学における一般教育,専門教育が多様化している中で,限られた講義時間内で理解できなかった箇所も,あるいは独学においても本書によって,地盤工学の考え方やその工学的な計算式とその仕組みを理解され,面倒な計算もその根拠を理解していれば,一つ一つの経験は興味に変わり,さらに高度な内容に進むきっかけになれば,この上ない幸せです.至らぬ点はご批判をいただければ,可能な限り訂正していきたいと考えています.
目次
Chapter 1 学問としての土質力学
- 土質力学の生い立ち
- 土質力学の立ち位置
- 土質力学の名称について
- 土質技術者とは
Chapter 2 土の基本的な性質
- 飽和土と不飽和土
- 土の構成図とその状態量の表示方法
- 土粒子の粒径による区分
- 土のコンシステンシー
演習問題
Chapter 3 土の透水性
- 土中水の種類
- 地下水の存在形態
- 水頭とは
- ダルシーの法則と透水係数
- 透水係数の測定方法
- 室内透水試験
- 原位置透水試験
- 浸透力・透水力・浸透水圧
- 限界動水勾配と浸透に関する専門用語
- ボイリングを考慮した土留め壁の根入れ長さの検討
- 限界動水勾配法
- テルツァーギ法
- 二次元での流れの場の基礎方程式
- 流線網
- 等方透水性地盤
- 異方透水性地盤
- 成層多層地盤の透水係数の求め方
演習問題
Chapter 4 地盤内の応力
- 地盤内応力とひずみのモデル化
- 載荷重に伴う地盤内応力の変化
- 半無限弾性地盤上の鉛直集中荷重による地盤内応力
- 円形等分布荷重による地盤内応力の増加
- 等分布荷重による鉛直方向の増加応力
- 帯状荷重による鉛直方向の増加応力
- ボストンコード法による鉛直方向の増加応力の概算法
- 半無限弾性地盤上の線直線荷重と等分布帯状荷重による増加応力
- 半無限弾性地盤上の線直線荷重による増加応力
- 半無限弾性地盤上の帯状荷重による増加応力
- 全応力と有効応力
演習問題
Chapter 5 土の圧密
- 土の圧縮と圧密
- 一次元圧密理論
- 圧密試験
- 圧密定数の求め方
- 圧密係数
- 体積圧縮係数
- 圧縮指数
- 先行圧密圧力
- 沈下量の求め方
- 地盤の沈下と時間の関係
- 換算層厚
- 差分式による数値計算
- 双曲線法による沈下と時間の関係の予測
- 圧密沈下曲線の補正
- 圧密促進工法
演習問題
Chapter 6 土のせん断強さ
- 土のせん断特性と破壊
- 地盤内に生ずる応力の表示
- モールの応力円
- モールの応力円の作図
- モールの応力円の性質
- 用極法
- 土の破壊規準
- 土のせん断試験
- 試験条件
- 直接せん断試験(一面せん断試験)
- 三軸圧縮試験
- 一軸圧縮試験
- 原位置ベーンせん断試験
- 砂と粘土のせん断特性
- 砂の密度の違いによる応力- ひずみ特性
- 正規圧密粘土と過圧密粘土の応力- ひずみ特性
演習問題
Chapter 7 土圧
- 土圧とは
- ランキンの土圧論
- 粘着力のない土の場合
- 粘着力のある土の場合
- 地表面が傾斜した粘着力のない地盤の場合
- 地表面が傾斜した粘着力のある地盤の場合
- クーロンの土圧論
- 壁体背面土上への荷重条件による剛性壁の土圧の算定
- 載荷された等分布荷重の換算高さについて
- 剛性壁の裏込め土内に地下水位がある場合
- 剛性壁の裏込め土が異なる地層で構成されている場合
- 集中荷重が作用している場合のランキン土圧
- たわみ性壁に加わる土圧
- 控え版タイロッド式土留め工法
- 切梁式鋼矢板工法
- ヒービングの検討
- テルツァーギ・ペックの方法
- チェボタリオフの方法
- 地中埋設管に作用する土圧
- 擁壁の安定に関する検討
- 地震時の土圧の取扱い
演習問題
Chapter 8 斜面の安定
- 斜面の種類と崩壊の要因
- 斜面の安定解析
- 無限長斜面の安定解析
- 粘着力のない無限長斜面
- 粘着力のある無限長斜面
- 分割法による斜面の安定解析
- フェレニウス法(簡便法)
- ビショプ法
- 非円形すべり面の安定解析(ヤンブ法)
- 安定係数を用いる斜面安定解析
- 地震時の斜面の安定計算
演習問題
Chapter 9 基礎の支持力
- 構造物の基礎
- 全般せん断破壊に対する支持力
- テルツァーギの支持力理論
- 支持力公式の実用上の問題点
- 局所せん断破壊について
- 根入れ部の上載荷重と地下水位の取り扱い
- 連続フーチング基礎に基づく支持力理論の独立フーチング基礎への適用
- 浅い基礎の粘土地盤上での極限支持力
- 深い基礎
- テルツァーギとマイヤーホッフの杭の支持力公式
- マイヤーホッフの実験的な極限支持力算定式
- 動力学的な極限支持力公式
- 杭の水平抵抗力
- 群杭の支持力
- 杭に働く負の周面摩擦力
演習問題