はじめてでもわかる質的調査法
定価 | ¥2,200(税込) |
ページ数 | 112 |
サイズ | A5 |
著者 | 加藤千恵子・土田賢省・菅原徹・渋谷英雄・後藤芙未子 |
発売 | インデックス出版 |
ISBN | 978-4-901092-88-3 |
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はじめにより
本書は質的調査の基礎的理論から調査や分析など実際の応用方法まで説明しています。そのため、初めて質的調査を勉強しようと思っている人、初めて質的調査を行おうと思っている人、データを取ったは良いがどのように分析したら良いかわからない人など幅広い人に読んでいただけるようにまとめました。
質的調査では、日常会話、映画、写真、SNS、広告、新聞、ポスター、テレビのドキュメント、小説、日記など、身の回りにあるもの、文字、音、映像のほとんどを対象とすることが可能なため、一つの事象に対し、さまざまな視点から分析することが可能で非常に有用な方法であります。しかし、残念ながら「分析方法がよくわからないから利用したことがない」という声をよく耳にします。これは、量的調査では一般的な法則について先に仮説を立て、実験や調査からその仮説を検証するいわゆる演繹的な流れで分析を進めるのに対し、質的調査では調査中に生起した人の行動や言動という結果(現象)から逆に一般的法則を見つけていく帰納的な流れで分析を進めますが、この“帰納的な分析” に馴染みが薄いからだと思われます。また、質的調査の難しさとして、まとめ方や解釈の基準が人によって異なる場合があることをあげる方もいます。質的調査では人が発する自然な言葉、表現、表情、態度、その人が表出した声、映像の全てがデータとなりますが、これらを調査前に予想することはできませんし、量も膨大であり、数値ではないため統計処理も容易ではありません。そのためデータの処理の仕方がわからずに、色々なまとめ方を我流で行い、「まとめ方によって結論が変わってしまう」という誤った道へ迷い込んでしまう方が多いのではないでしょうか。それに対し、量的調査では主にアンケート調査を用いることが多く、たとえば選択方式の調査では、アンケート用紙中に回答が用意されており、その中から回答が選ばれますので調査者にとって理解しやすいデータが得られます。その採取されたデータは統計的処理により結論が導かれることが多く、分析手順が比較的統一されているので、量的調査は誰が行っても結論がほぼ同じになり比較的取り扱い易いと感じるのでしょう。
しかし、それでも質的調査を行う価値は多いにあります。たとえば量的調査では一般的に一ヵ所に人を集め一斉にアンケートを取ることが多く、常に正直に回答をしてもらえるとは限りません。人は日常的に思っていることでも、改めて検査のように問われると社会的に望ましい態度を示しがちです。簡単に言えば“かっこつけた回答” にならないとも限りません。一方、質的調査は日常的な自然な場面で観察や面接を行いデータとする場合が多く、人の本心をより深く探求することが可能です。
質的調査のデータを正しく分析できれば、自然な人の姿から、誰も気づかなかった法則・行動・態度を発見できるチャンスがあり、量的調査では掘り下げられないことを明らかにできる場合もあります。また、フィールドワークの楽しさ、人との輪が広がり、他者への理解、予想外な反応との出会い、異なる視点・価値観、など調査者本人の成長という“おまけ” を手に入れられることもよくあります。
このように書くと「とりあえずやってみよう!」と思ってしまうかもしれませんが、調査したい事象が見つかったら、まずそれが質的調査に適合できるものかを検討しなくてはなりません。調査では何をデータとして採取し、そこから何を明確にできるのかを検討しなくてはなりません。また、質的調査のデータはその場の環境条件、社会条件なども考慮して分析しないと誤った結論を導きかねません。正しい調査、分析方法を身につけないと、データが膨大となるだけに、結論を出せず仕舞いに終わってしまうリスクがあるのでよく勉強をしてから臨んでいただきたいと思います。
最後に質的調査に協力するということは、量的調査と比較すると負担が大きいことを念頭においていただきたいと思います。もちろん、量的調査においても、回答していただく方への負担の大きさは質的調査と比較できるものではなく、貴重な時間をいただき、データをいただくということでは同じであるのですが、質的調査は、自然な状態でのインタビューや映像など、プライベートな内容に踏み込むことが多く、協力していただく時間もかなり長くなると考えられますので、調査に協力してくださる方に対する感謝をくれぐれも忘れないようにしていただきたいと思います。
目次
- 第1章 量的調査法と質的調査法
- 量的調査法と質的調査法の特徴
- プライバシーと個人情報の保護
- 「海外旅行への関心」から学ぶ量的調査法と質的調査法
- 第2章 質的調査法の種類Ⅰ
- 質的調査法の特徴
- インタビュー・聞き取り調査法
- ライフヒストリー法
- 会話分析(談話分析)
- 事例研究(ケーススタディ)
- SNS分析・ネットデータ分析
- 第3章 質的調査法の種類Ⅱ
- 観察法
- フィールドワーク
- エスノグラフィー
- ビジュアル分析
- 第4章 データの整理とその準備
- テキスト分析
- テキストマイニング
- KJ法
- クラスター解析
- グラウンデット・セオリー
- データの整理と分析の下準備
- 品詞分析(形態素解析)からコーディングの作業
- 第5章 テキストマイニング解析事例
- TTM の概要
- 形態素解析
- 係り受け解析
- TTM のインストール方法
- TTM を用いたテキスト解析方法
(参考)MeCab とCaboCha のインストール方法
- 第6章 カイ2乗検定の適用
- 帰無仮説と有意水準
- カイ2乗検定
- Excelによるカイ2乗検定の実行例
- 第7章 t検定の適用
- 対応なしの場合のt検定
- 対応ありの場合のt検定
- t検定(対応あり)のExcelによる実行例
- 第8章 分散分析の適用
- 1元配置の分散分析
- 1元配置の分散分析のExcelによる実行例
- 第9章 相関分析の適用
- 相関係数とその有意性検定
- 相関分析のExcelによる実行例
- 第10章 報告書・論文の作成とプレゼンテーション
- 説得力をもたせる報告書、論文の書き方
- 感性に訴えるプレゼンテーション