コンパクトシリーズ流れ 流れの話
定価 | ¥1,650(税込) |
ページ数 | 131 |
サイズ | A5 |
著者 | 河村 哲也 |
発売 | インデックス出版 |
ISBN | 978-4-910058-12-2 |
ISBN (電子書籍) | 978-4-910058-25-2 |
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はじめにより
本書は流れの科学,特にその中心的な分野である流体力学に対して,一部分powerpointのスライドを補助にして解説した入門書です.そのため,物理に対してあまり知識のない読者に対しても理解できるように記述しています.位置づけとしては著者の「コンパクトシリーズ流れ」の別冊になっています.
流体とは空気など気体と水など液体を総称した用語です.これは,気体と液体は力学的に似ているためまとめて議論するのが便利だからです.われわれは空気と水に取り囲まれて生活しているため,流体力学を理解することはとても重要であり,また応用範囲は多岐にわたります.流体力学の基本法則は,質量の保存,運動量の保存,エネルギーの保存であり,流体力学のもとになる基礎方程式はこれらの自然法則を式で記述したものに他なりません.ただし,流体は自由に変形するため,その運動は非線形現象になり,それを数学的に解析することはきわめて困難です.一方,流体力学は実用に欠かせないため,コンピューターを用いた解析(CFD=Computational Fluid Dynamicis)が,コンピューターの発明以来,重点的に行われてきました.気象分野における数値予報もその例です.
本書は3部構成にAppendixを付け加えた形になっています.Part Ⅰは,流体力学のやさしい入門で,5つの疑問,油圧ジャッキの原理,飛行機の速度計,回転ボールのカーブ,飛行機が飛ぶ理由,ゴルフボール表面にある凹凸の理由について答える形でpowerpointのスライドを使いながら話を進めます.Part Ⅱは,主として物理的な説明になっていたPart Ⅰの内容を数学を使って補足しています.前述のように流体力学の数学的な取扱いは非常に難しいのですが,流体の粘性が無視できる場合で,特に2次元的な流れに話を限ると,複素関数論がそのまま使えます.複素関数論というと敷居が高く感じられますが,本書で述べる基礎部分は高校程度の微分積分の知識で十分理解できます.Part Ⅱを読むことによって流体力学の美しさを感じていただければと思います.Part ⅢではCFDについて著者の研究を振り返る形でpowerpointのスライドを使いながらやさしく述べています.現在,CFDは流体力学の主要分野であり,研究者の数も膨大ですが,著者がCFDをはじめた1980年初頭は日本におけるCFDの研究者は数えるくらいしかいませんでした.Appendix A,Bは,著者が学生時代からお世話になり影響を受けた2人の先生の思い出を記した文で,日本流体力学会誌「ながれ」に載せたものを許可を得て転載したものです.またAppendix Cは著者がCFDについて日頃考えていることを,一部分ですが,書き記したものです.また,Appendix Dでは「コンパクトシリーズ流れ 流体シミュレーションの基礎」でスペースの関係で記せなかった内容を補遺の形で補いました.
実は本書のもとになったものは著者の2つの講話です.ひとつは放送大学文京学習センターの学生に対しておこなった「流れの科学入門」という1時間半の遠隔授業で,そのときのpowerpoint資料を解説する形にしています.Part Ⅲは,著者が昨年(2020年3月)の定年直前におこなった最終講義で,そのときのpowerpoint資料および音声の講演記録を一部分を除きほぼそのまま文字におこしたものです.この最終講義は著者が大学教員として行ってきた研究,社会貢献,大学運営,教育を振り返ったものです.その中で本書の主題に関連するのは研究の部分だけです.その他の部分は流体力学には直接関係しませんが,こういった話もなんらかの形で読者のみなさんの参考になるかと思い,あえて本書に載せました.
最後になりましたが,本書の出版にあたりインデックス出版のスタッフに大変お世話になりました.また私の研究者仲間の永田裕作氏(現日本文理大学准教授)は最終講義の録音を文字におこすという大変な作業を自ら申し出てくださいました.ここに記してこれらの方々に感謝の意を表します.
目次
Part Ⅰ 流体力学入門
流体力学とは
静水力学
流体の運動
粘性流体の流れ
まとめ
Part Ⅱ 2次元渦なし流れと関数論
偏微分と全微分
流体の2次元運動
循環と渦度
複素数の関数
流れ関数と速度ポテンシャル
各種流れ
流れ中におかれた円柱に働く力
コーシーの積分定理
Part Ⅲ 最終講義(令和2年3月10日)
研究
社会活動
大学運営
教育
まとめ